告知事項について

 更新日/2017(平成29).12.9日

 ここで、「告知事項について」検討しておきます。

 2017(平成29).11.3日


【告知事項について】
 2021.3.31日、「不動産広告「告知事項あり」のウラに秘められた、衝撃の背景」その他参照。

 不動産の告知事項とは、不動産業者が買主、賃借人に必ず伝えなければならないとされている事柄を指す。その事項は、「物理的瑕疵」、「法的瑕疵」、「環境的瑕疵」、「心理的瑕疵」の4瑕疵に分類できる。これらの告知事項に該当する場合、「告知事項あり」との記載が義務付けられている。

 「告知事項あり」と記載された物件は売買・賃貸ともに周辺相場より価格・家賃が安く設定されているのが普通であり、その告知すべき内容が記載されていないと却って不安を増幅させるので、告知事項の要因につき必要な範囲内のことを明記しておくのが良い。

 物理的瑕疵

 天井からの雨漏り、水回りの漏水、壁や床の亀裂、木造建物のシロアリの被害、マンションの耐震強度不足、土地の土壌汚染や地中障害物の有無などが当てはまる。リフォーム後の瑕疵、土壌汚染、地中障害物については視認できないので注意を要する。用途地域が工業系(準工業地域など)の場合は土壌汚染に注意が必要である。売主も知り得ない過去に、そこで有害物質を使用する工場が稼働していた可能性も考えられる。各種工場・作業所の稼働履歴は行政機関で確認できるので、不動産業者は調査しておくべきである。

 法的瑕疵


 建物が行政ルールに違反している場合がある。建造物に関わる法律として「建築基準法」、「消防法」、「都市計画法」がある。それらに抵触するのが法的瑕疵物件である。容積率や建蔽率が法定基準を超えている場合は建築基準法に、マンションやオフィスビルなどの共同建物で防火扉や避難ハシゴが取り付けられていない場合は消防法にそれぞれ抵触する。また、行政機関の建築確認審査が緩かった時代の用途地域指定外建物や無道路地建物などが抵触する。私道が入り組んだ場所などのなかに建つ建物は周辺相場より安価で販売されているが、土地を更地にして建物を新築することができるかどうか確認するのが良い。これらは都市計画法に抵触するものの取り壊しは強要されない。このケースの場合には「再建築不可」と記載されるケースが多い。

 環境的瑕疵


 鉄道や高速道路、工場やゴミ焼却場、危険物取扱施設であるガソリンスタンドなど騒音、異臭、危険に絡む施設が近隣にある場合が環境的瑕疵である。

 心理的瑕疵


 自殺、孤独死、他殺などの室内死亡事故があった物件をいう。共用部で起こった事故(建設工事中に作業員が転落死など)も含まれる。「病死」に関しては告知義務がない。但し、死亡数日後に発見された場合は、死因が病気であっても「孤独死」として扱われ告知義務が発生する。

 賃貸物件では、死亡事故後に初めて入居する賃借人に対してその旨告知する義務があるものの、それに次ぐ賃借人へは告知しなくてもいいという暗黙のルールがある。しかし、事故物件の噂は近隣住民にも知れ渡っているケースが多いので、不動産業者が事実を伏せて契約しても、いずれ周辺から漏れ伝わることとなる。この辺りにつき、不動産業者は、賃貸人の利益も守らなければならず頭を悩めるところである。

 その他の告知義務が生じる瑕疵


 上記の4瑕疵以外にも、近隣に墓地や斎場、火葬場、風俗店、暴力団事務所があることも告知事項に当たる。さらに近年では、行政機関が発行する「水害ハザードマップ」に浸水被害想定地域として記載されている場合も告知義務が科せられるようになった。

 1964年の東京オリンピック以前、東京・南青山は広大な墓所(青山霊園)と寺社しかない地味な場所だった。それが今や時代の最先端を行く街に変貌している。東京・港区には徳川家に所縁のある増上寺、中央区には京都・西本願寺の直轄寺院である築地本願寺があり、いずれもかつては周辺一帯に寺院や墓所が点在する地域だった。現在はそのほとんどが移設され、跡地にはスタイリッシュなタワーマンションやオフィスビルが誕生して都心の一等地となっている。そういう意味では瑕疵も相対的なもので変遷することになる。
 物理的・環境的瑕疵は実害を伴うため、慎重に検討を

 心理的瑕疵であるか否かは、そこに住む人がどのような心持ちになるかに左右される。事故物件であっても利便性豊かな場所にあれば入居者は集まるため、投資家にとっては有益な物件になる。但し、物理的瑕疵や環境的瑕疵物件については実害が伴う可能性が高いので、購入の際は慎重に検討する必要がある。

【取引後の瑕疵対処法について】
 プロの不動産業者であっても、目視ですべての瑕疵を把握するのは難しい。とくに壁面の亀裂や雨漏りなどはリフォームすれば発見できなくなる。そのため、建物の過去を知る物件所有者(売主)が、知り得る瑕疵を包み隠さず「告知書」(付帯設備及び物件状況確認書)に記載することがルールとなっている。不動産業者はこの告知書を基に物件調査を行い、実際に確認できた瑕疵情報を重要事項説明書に反映させる。

 購入後、告知書にない「隠れた瑕疵」が原因で建物が使えなくなった場合は、買主は売主に対して「契約不適合責任」を求めることができ、瑕疵部分の補修や交換、売買代金の減額を請求できる。それでも建物の状態が改善されない場合や、売主が話し合いの場に出てこないなど消極的な場合は、損害賠償請求や契約解除も行使できる。但し、契約不適合責任の請求期限は買主が瑕疵を知ったときから1年以内の期限がある。不具合を感じたらすぐ売買取引を仲介した不動産業者に相談するのが良い。

 問題は、瑕疵あり見込みの取引金額にしている場合である。この場合は互いにどう対処すべきだろうか。実務的には「瑕疵免責特約」が付された取引にしている場合が多いのではなかろうか。その特約を突き抜けて損害賠償請求や契約解除権が行使できるのだろうか。

【風呂場での死亡、階段からの転落死等々は告知事項か】
 「賃貸住宅での死亡事故について(告知事項は必要?)」その他参照。
 風呂場での死亡、階段からの転落死等々は告知事項か。これを設問とする回答は告知事項とするのが一般的である。しかし私のように微妙とする見解もある。事故死、病死を問わず発見が遅れ遺体が腐敗し、近所近隣に大騒ぎされたケースはともかく、表沙汰にならぬ形で処理された場合まで告知事項とすべきだろうか。通説は、「告知事項とすべき」としているようである。「告知事項ではないがトラブル防止のために伝えた方が良い」とする見解もある。これは結局は「告知事項要す」の側であろう。これを更に押し進め、「たとえ病死だとしても必ず告知するようにしています」なる見解もある。

 しかし、私は判断を留保したい。業者の信用問題の見地からはあり得ても、正解とは言えないと思う。問われているのは要するに、家主(売主)側の財産価値保全、入居者(買主)側の契約行為保全、業者の信用保全であり、これが三位一体で複雑に絡んでいると云う難しい問題であることを正確に認識するところから始めねばならない、と思う。

【事故物件に於ける告知義務条文】
 宅地建物取引業法47条1号は、取引相手の判断に重要な影響を及ぼす心理的瑕疵(キズ)に関して告知義務があるとして、これを告知しないことを次のように禁止している。
 宅地建物取引業法第47条(業務に関する禁止事項)

 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
1号  宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
 イ 第35条第1項各号又は第2項各号に掲げる事項
 ロ 第35条の2各号に掲げる事項
 ハ 第37条第1項各号又は第2項各号(第1号を除く。)に掲げる事項
 ニ イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
2号  不当に高額の報酬を要求する行為
3号  手付けについて貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為
 宅地建物取引業法第35条(重要事項の説明等)

 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、取引主任者をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
 当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあつては、その名称)
 都市計画法 、建築基準法 その他の法令に基づく制限で契約内容の別(当該契約の目的物が宅地であるか又は建物であるかの別及び当該契約が売買若しくは交換の契約であるか又は貸借の契約であるかの別をいう。以下この条において同じ。)に応じて政令で定めるものに関する事項の概要
 当該契約が建物の貸借の契約以外のものであるときは、私道に関する負担に関する事項
 飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合においては、その整備の見通し及びその整備についての特別の負担に関する事項)
 当該宅地又は建物が宅地の造成又は建築に関する工事の完了前のものであるときは、その完了時における形状、構造その他国土交通省令で定める事項
 当該建物が建物の区分所有等に関する法律 (昭和三十七年法律第六十九号)第二条第一項 に規定する区分所有権の目的であるものであるときは、当該建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類及び内容、同条第四項 に規定する共用部分に関する規約の定めその他の一棟の建物又はその敷地(一団地内に数棟の建物があつて、その団地内の土地又はこれに関する権利がそれらの建物の所有者の共有に属する場合には、その土地を含む。)に関する権利及びこれらの管理又は使用に関する事項で契約内容の別に応じて国土交通省令で定めるもの
七    代金、交換差金及び借賃以外に授受される金銭の額及び当該金銭の授受の目的
 契約の解除に関する事項
 損害賠償額の予定又は違約金に関する事項
十    第41条第1項に規定する手付金等を受領しようとする場合における同条又は第41条の2の規定による措置の概要
十一  支払金又は預り金(宅地建物取引業者の相手方等からその取引の対象となる宅地又は建物に関し受領する代金、交換差金、借賃その他の金銭(第四十一条第一項又は第四十一条の二第一項の規定により保全の措置が講ぜられている手付金等を除く。)であつて国土交通省令で定めるものをいう。以下同じ。)を受領しようとする場合において、第六十四条の三第二項の規定による保証の措置その他国土交通省令で定める保全措置を講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要
十二  代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあつせんの内容及び当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
十三  当該宅地又は建物の瑕疵を担保すべき責任の履行に関し保証保険契約の締結その他の措置で国土交通省令で定めるものを講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要
十四  その他宅地建物取引業者の相手方等の保護の必要性及び契約内容の別を勘案して国土交通省令で定める事項
 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の割賦販売(代金の全部又は一部について、目的物の引渡し後一年以上の期間にわたり、かつ、二回以上に分割して受領することを条件として販売することをいう。以下同じ。)の相手方に対して、その者が取得しようとする宅地又は建物に関し、その割賦販売の契約が成立するまでの間に、取引主任者をして、前項各号に掲げる事項のほか、次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならない。
 現金販売価格(宅地又は建物の引渡しまでにその代金の全額を受領する場合の価格をいう。)
 割賦販売価格(割賦販売の方法により販売する場合の価格をいう。)
 宅地又は建物の引渡しまでに支払う金銭の額及び賦払金(割賦販売の契約に基づく各回ごとの代金の支払分で目的物の引渡し後のものをいう。第42条第1項において同じ。)の額並びにその支払の時期及び方法
 宅地建物取引業者は、宅地又は建物に係る信託(当該宅地建物取引業者を委託者とするものに限る。)の受益権の売主となる場合における売買の相手方に対して、その者が取得しようとしている信託の受益権に係る信託財産である宅地又は建物に関し、その売買の契約が成立するまでの間に、取引主任者をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。ただし、その売買の相手方の保護のため支障を生ずることがない場合として国土交通省令で定める場合は、この限りでない。
一  当該信託財産である宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあつては、その名称)
二  当該信託財産である宅地又は建物に係る都市計画法 、建築基準法 その他の法令に基づく制限で政令で定めるものに関する事項の概要
三  当該信託財産である宅地又は建物に係る私道に関する負担に関する事項
四  当該信託財産である宅地又は建物に係る飲用水、電気及びガスの供給並びに排水のための施設の整備の状況(これらの施設が整備されていない場合においては、その整備の見通し及びその整備についての特別の負担に関する事項)
五  当該信託財産である宅地又は建物が宅地の造成又は建築に関する工事の完了前のものであるときは、その完了時における形状、構造その他国土交通省令で定める事項
六  当該信託財産である建物が建物の区分所有等に関する法律第二条第一項 に規定する区分所有権の目的であるものであるときは、当該建物を所有するための一棟の建物の敷地に関する権利の種類及び内容、同条第四項 に規定する共用部分に関する規約の定めその他の一棟の建物又はその敷地(一団地内に数棟の建物があつて、その団地内の土地又はこれに関する権利がそれらの建物の所有者の共有に属する場合には、その土地を含む。)に関する権利及びこれらの管理又は使用に関する事項で国土交通省令で定めるもの
七  その他当該信託の受益権の売買の相手方の保護の必要性を勘案して国土交通省令で定める事項
 取引主任者は、前三項の説明をするときは、説明の相手方に対し、取引主任者証を提示しなければならない。
 第1項から第3項までの書面の交付に当たつては、取引主任者は、当該書面に記名押印しなければならない。
 宅地建物取引業法第37条(書面の交付)

1項  宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
1号 当事者の氏名(法人にあつては、その名称)及び住所
2号 当該宅地の所在、地番その他当該宅地を特定するために必要な表示又は当該建物の所在、種類、構造その他当該建物を特定するために必要な表示
3号 代金又は交換差金の額並びにその支払の時期及び方法
4号 宅地又は建物の引渡しの時期
5号 移転登記の申請の時期
6号 代金及び交換差金以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的
7号 契約の解除に関する定めがあるときは、その内容
8号 損害賠償額の予定又は違約金に関する定めがあるときは、その内容
9号 代金又は交換差金についての金銭の貸借のあつせんに関する定めがある場合においては、当該あつせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置
10号 天災その他不可抗力による損害の負担に関する定めがあるときは、その内容
11号 当該宅地若しくは建物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置についての定めがあるときは、その内容
12号 当該宅地又は建物に係る租税その他の公課の負担に関する定めがあるときは、その内容
2項  宅地建物取引業者は、宅地又は建物の貸借に関し、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
1号
前項第1号、第2号、第4号、第7号、第8号及び第10号に掲げる事項
2号
借賃の額並びにその支払の時期及び方法
3号
借賃以外の金銭の授受に関する定めがあるときは、その額並びに当該金銭の授受の時期及び目的
3項  宅地建物取引業者は、前二項の規定により交付すべき書面を作成したときは、宅地建物取引士をして、当該書面に記名押印させなければならない。

【告知義務違反について】
 告知義務違反の場合、契約解除が可能で、且つ損害賠償も請求をされる。慰謝料や弁護士費用の負担などかなりの費用が見込まれる。

【告知義務期間について】
 但し、告知義務期間に明瞭な決まりはない。50年前に起きた殺人事件現場の物件でも、告知すべき瑕疵があるとした判決例がある他方で、東京地裁の判決では2年を経過すると瑕疵とは言えないとの判例もでている。

【告知義務のソフト化について】
 告知義務の生硬な適用は経済活動上の由々しき事態を招くので、これをソフト化する方法がある。例えば、禊(みそぎ)儀式、「1回転(次の入居者1人)、2年で解除」法理による一定期間の第三者入居(「事故物件ロンダリング」)等々である。これにより告知義務が解除されるかどうかと云う問題はこれからの検討事案である。姑息な対応ではなく法理的に明らかにすべきだと思う。