不動産取引における責任期限、時効について

 (更新2015(平成26).06.04日)

 ここで、「不動産取引における責任期限、時効について」を検討しておきます。ここは盲点になっておりますね。

 2015(平成26).06.04日


【不動産取引における民事上の責任期限、時効について】
 不動産業者による不動産取引に於いて、その取引の不備を訴追できる期限、時効について確認しておく。これに関してネット検索したがピタリの回答物はない。「不動産流通推進センター/不動産相談コーナー」の「売買事例 0810-B-0083宅建業法上の不利益処分と時効」が参考になるので確認しておく。

 民事上の時効制度は、民法第162条及至第174条の2、第724条及び商法第522条などの規定に基づいて、その時効期間が独自に定められている。民事上の時効と行政法上の行政処分(不利益処分)とは関係ない。即ち、行政法上の行政処分(不利益処分)には民事上の時効がない。このことを踏まえて、まずは民事上の時効を確認しておく。

 不動産売買取引の買主が一般の個人であれば、原則として物件の引渡しを受けた時から10年間(民法第167条第1項)、一般的商事時効は5年間(民法169条、商法522)。但し、特則がある(会社701、商法566条等)。不法行為による損害賠償請求権を行使する場合には、その損害及び加害者を知った時から3年間、不法行為の時から20年を経過すれば、その損害についての請求はできなくなる(民法第724条)。(注)この20年は、時効期間ではなく、「除斥期間」と解されている(最判平成元年12月21日民集43巻12号2209頁)。3年間の場合(民法170条)、2年間の場合(民172条、173条)、1年間の場合(民法174条)がある。
 参照条文
 民法第162条
(1) 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
(2) 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
 民法第166条
(1) 消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
(2) 前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
 民法第167条(債権等の消滅時効)
(1) 債権は、10年間行使しないときは、消滅する。
(2) 債権又は所有権以外の財産権は、20年間行使しないときは、消滅する。
 民法第170条(3年の短期消滅時効)
 次に掲げる債権は、3年間行使しないときは、消滅する。ただし、第2号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。
(1) 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
(2) 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権
 民法第172条(2年の短期消滅時効)
(1) 弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から二年間行使しないときは、消滅する。
(2) 前項の規定にかかわらず、同項の事件中の各事項が終了した時から五年を経過したときは、同項の期間内であっても、その事項に関する債権は、消滅する。
 民法第173条(2年の短期消滅時効)
 次に掲げる債権は、2年間行使しないときは、消滅する。
(1) 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
(2) 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
(3) 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
 民法第174条(1年の短期消滅時効)
 次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。
一  月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二  自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三  運送賃に係る債権
四  旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
五  動産の損料に係る債権
 民法第174条の2(判決で確定した権利の消滅時効)
(1) 確定判決によって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。裁判上の和解、調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても、同様とする。
(2) 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
 民法第724条(不法行為による損害賠償の請求権の期間の制限)
 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効により消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。
 商法第522条(商事消滅時効)
 商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。

 2015(平成26).01.26日

不動産取引における行政法上の責任期限、時効について
 
 最判平成元年11月24日民集43巻10号1169頁。

 宅地建物取引業法に基づく宅建業者に対する不利益処分は、その営業継続を不能にする事態を招き、既存の取引関係の利害にも影響するところが大きいところ、業務の停止に関する権限がその裁量により行使されるべきことは同法第65条2項の規定上明らかであり、同法66条に基づくもののうち、停止事由に該当し特に状況が重いときになされる免許の取消しについてその要件の認定に裁量の余地があり、これらの処分の選択、その権限行使の時期等は、知事等の専門技術的判断に基づく合理的裁量にゆだねられている。
 参照条文
 宅地建物取引業法第65条(指示および業務の停止)
(1)  国土交通大臣又は都道府県知事は、(中略)宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当する場合又はこの法律の規定に違反した場合においては、当該宅地建物取引業者に対して、必要な指示をすることができる。
 
 一〜四 (略)
(2)  国土交通大臣又は都道府県知事は、その免許を受けた宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該宅地建物取引業者に対し、1年以内の期間を定めて、その業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。
  
 一〜八 (略)
(3)(4)(略)
 同法第66条(免許の取消し)
(1)  国土交通大臣又は都道府県知事は、その免許を受けた宅地建物取引業者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該免許を取り消さなければならない。
 一〜九 (略)
(2)  国土交通大臣又は都道府県知事は、その免許を受けた宅地建物取引業者が第3条の2第1項の規定により付された条件に違反したときは、当該宅地建物取引業者の免許を取り消すことができる。

 「監修者のコメント」は次の通りである。
 【回答】のとおり、行政処分をする権限は、その性質上、時効にかかるということはない。それは、消滅時効という制度が、民事上の権利を有する者が、いつでも権利を行使できるにもかかわらず、長年にわたって権利行使をしなかったことを捉えて、権利を消滅させるものであるのに対し、行政処分を行うという公法上の権限に時効の制度趣旨は当てはまらないからである。ただ、たとえば宅建業者が過失により重要事項説明義務違反をしてしまったという場合、民事上の債務不履行に伴う損害賠償責任は、義務違反の時から10年の経過により消滅時効にかかり(民法第167条第1項)、また不法行為に基づく損害賠償責任も、被害者が損害と加害者を知った時から3年間、またはその事実があった時から20年経過すれば、その責任は消滅する。そのような場合、すなわち宅建業者の民事上の責任が、消滅時効にかかり、もはや業者の相手方(顧客)が何も言えなくなったにもかかわらず、行政庁の処分権限は時効がないとして、何らかの処分をするということ自体、通常は考えられないところである。

 2015(平成26).06.04日

保証協会の認証可否事案について
-保証協会の認証-
 保証協会の社員である宅建業者の詐欺により被った損害が、「その取引により生じた債権」にはあたらないとの理由で認証申し出の拒絶が認められた事例
 (東京地判 平22・6・29 ウエストロージャパン) 古本隆一
 土地の持ち主が、宅地建物取引業法64条の2第1項の指定を受けた宅地建物取引業保証協会に対し、その社員である宅建業者の詐欺行為によって被った損害にかかる債権につき同法64条の8に基づいて認証の申し出を行ったところこれを拒否されたため、同債権の認証を求め、同協会による上記の運用は制度趣旨に反するとして不法行為に基づく損害賠償を求めた事案において、社員の欺罔行為により生じた求償権又は損害賠償請求権は、同法所定の「その取引により生じた債権」にはあたらず、その債権について認証申し出を拒否したことにより権利が侵害されたものでもないとして、土地の持ち主の請求を棄却した事例(東京地裁 平22年6月29日判決 請求棄却
ウエストロージャパン)

 1 事案の概要
 Xの母Bは,平成13年7月頃、その所有する宅地につき、宅建業者Aに媒介を依頼した。Aは宅地建物取引業法64条の2第1項の指定を受けた宅地建物業保証協会Yの社員であった。Aの代表者は、平成13年9月初旬頃、2億円を超える借金を抱え、その返済に追われていたため、Bが所有する土地を自己の金策に利用しようと考え、販売の目途がなかったのに、買主に見せる必要があるなどと虚偽の事実を述べ、その旨誤信したBから、当該土地、その他の土地建物の登記済証を預かった。平成13年9月13日、AはBに対し、買主がまだ見つからないので、Aの事業資金を借り入れる際の担保として一時的に当該土地を貸してほしい旨、自己所有地を近々売却して,必ず返済に充て、当該土地を販売するので心配は不要である旨虚偽の事実を述べ、その旨誤信したBから、当該土地を担保に供することの同意を得た上、実印と印鑑登録証を預かった。平成13年9月17日、Aは当該土地に根抵当権を設定することとし、Bを連れて、司法書士事務所を訪問した。その際、Bは、同事務所の司法書士から,債務者をAとする当該土地に対する根抵当権設定登記の委任状を示されるなどしたが、特段、疑義を呈することなく上記委任状の委任者(義務者氏名)欄に署名をした。当該土地は,平成15年6月6日、根抵当権者の申立てにより、競売開始決定がされ、その後競落された。Bは、Yに対し、平成17年10月17日、認証申出書を提出して、認証の申し出を行った。Yは、平成18年3月14日、本件認証申出に対し,「申出債権は,社員との宅地建物取引により生じた債権とは認められない。」との理由で認証を拒否した。