中間省略ついて

 更新日/2017(平成29).7.17日

中間省略について
 売買における中間省略の許容される範囲、許容される場合の方法、要領、肝要な留意点について確認しておく。
 例えば次のようなケースである。売主A、買主Bの取引が進行中で契約寸前のところ、新たにどうしても買いたいという第三者買主Cが登場した場合、仲介業者が、売主A-買主Bの売買契約、売主B-買主Cの売買契約をすることができる。この場合、その所有権移転登記を買主Bを外して売主Aから直接に買主Cに移転することができるのかできないのか。できるのなら、買主Bに発生する登記費用、不動産取得税を転嫁することなく買主Cとの売買契約に向かうことができる。できないのなら、転嫁せざるを得ず、これにより買主Cの購入金額が登記費用、不動産取得税を補填する分だけ更に高くなることになる。できる合法的方法はないのだろうか。

中間省略の方法、第三者のためにする契約について
 「中間省略登記を事実上容認へ~第三者のためにする契約スキーム導入~不動産鑑定士・(社)不動産証券化協会認定マスター・司法書士・山田 毅参照。
 中間省略登記とは、例えばA→Bへの売買契約後に、Bが転売し、B→Cへの売買契約となった場合、その所有権移転登記を中間のBを経由することなく、A→Cに直接行うことをいう。これが悪用されると、そもその売主の売買金額が不当に抑圧され、中間者の転売利益に資することになる。これが善用されると、不動産市場に於ける取引物件化を促進し、不動産業者の取引機会を増やすことに資す等、不動産市況の活性化に資することになる。

 最高裁判例(昭和40年9月)は、A→B→Cと売買が行われたケースで登記名義人A,、中間者Bの同意がある場合に限りA→Cへの中間省略登記が認められると判示した。現在の所有権者から登記名義人に対する直接の登記請求権を認定した近年の判例は中間者の同意がなくても中間者の保護に値する法的利益を損なうことがなければ中間省略登記を認めるまでに至っている。

 但し、登記行政、司法書士業界の意向は消極的で、「結果的に中間者等の同意があれば判決で中間省略登記が可能となったとしてもこのことをもって中間省略の登記申請ができるとしたわけではない」、「不動産登記法は、物権変動過程をあるがままに登記で公示させることで、権原調査を容易にするため法的安定を保ち、取引の安全を確保するための法律であるから中間省略登記は認めるべきでない」、 「司法書士が中間省略登記であることを認識しつつ、AC間に直接物権変動が存在するがごとき登記証明情報を作成すること及びその旨の登記を申請することは、司法書士の職責並びに倫理に反し厳に避けなければならない」(H17.3.9日司蓮発1467号通知)とする見解を見せている。

 一方、当事者が了解し、敢えて自己名義に登記しないリスクを冒して中間省略登記を選択しているのに排除するという強制をするのはいかがなものかという見解もある。不動産登記を依頼する側の不動産業界は中間省略登記を強く支持している。登録免許税や不動産取得税を節税でき、エンドユーザーである最終買主の購入価格に税金分のシワ寄せがいかない利点が不動産流通市場を活性化させると主張している。このように依頼する側の不動産業界をはじめとする産業界と不動産登記を実行する行政や現場との間に中間省略登記の可否を巡るスタンスにズレがあり、中間省略登記に対する政府の明確な指針もなく混迷していた。

 2005(平成17)年3月7日より施行された改正不動産登記法により事実上、中間省略登記ができなくなった。しかし業界の強い要望もあり、内閣府規制改革・民間開放推進会議が法務省との折衝を重ねた結果、2006(平成18)年12月25日の最終答申で、「第三者のためにする契約」というスキームを導入することで中間省略登記と同様の結果を適法に実現することを可能とした。翌26日、最終答申の内容が、閣議で、全省庁が最大限尊重することを決定した。これにより年明けに法務省から周知文書が出される見通しとなった。 

第三者のためにする契約の方法、要領、肝要な留意点について
 わが国の民法は、契約自由が認められる近代法の特質として第三者のためにする契約の有効性を認めている。第三者のためにする契約は要約者、諾約者、受益者の3者構成となる。この契約から生じる効力は第三者である受益者が諾約者に対して債権を取得することである。言い換えると通常の契約では一方の当事者は相手方に対して債務を負担するのが普通だが、当該債務を第三者に対して負担する特約がなされる。このスキームを不動産売買の例でみると次のような内容、プロセスとなる。

 売主A、中間者B、買主Cとする。まずAB間で所有権移転・引渡しをBが指定する第三者Cに対して行うことを目的とする『第三者のためにする契約』を締結。またBが売買代金全額の支払いを行った後、Bに自動的に所有権が移転しないよう「買主への移転は自らを指定する明示の意思表示があったとき」とする特約を付ける(所有権留保特約)。一方、BC間でA所有不動産をCに売却する売買契約を締結し、AがCに直接に所有権移転・引渡しを行う特約を行う。上記によりCがBに売買代金全額の支払いをなしたときA→Cの所有権移転が完了する。その結果、中間省略登記と同様の効果が結果的に発生する。このスキームは、法務省が中間省略登記を受理する代わりに、内閣府に対し対案として示したもので実態の権利変動を裏付ける契約が個々に存在することで権原調査も容易となり登記の正確性が保てるし、内閣府も規制緩和の一環である取引費用の低減ニーズに応え、住宅・土地市場の活性化を達成できるというものだ。今後は、法務省から、法務局、司法書士会をはじめ不動産業界に対して「第三者のためにする契約」によって登記可能であることの周知徹底が本年中に相次ぎなされると思われる。

【A→B→C所有権の直接移転登記に必要な売買契約書の特約】
 「不動産売買の登記/ 第三者のためにする契約  新中間省略登記(宅建業様専用
ページ)
」参照
 A→B→C所有権の直接移転登記に必要な売買契約書の特約

 A→B第1売買について
売主(A)及び買主(B)は、本契約が第三者のためにする特約を付した売買契約として締結されるものであることを確認する。
買主(B)は、売主(A)に対し本物件の所有権の移転先となる者(買主本人を含む)を指定するものとする。
本物件の所有権は、買主(B)の指定及び売買代金全額の支払いを条件として売主(A)から買主の指定する者に直接移転する。
 本物件の所有権は、前条の条件成就までは売主(A)に留保されることを確認する。
 売主(A)は、所有権の移転先に指定された者が売主(A)に対してする「本物件の所有権移転を受ける旨の意思表示」の受領権限を買主(B)に委任する。(※1)
 特約条項と本契約とで抵触する規定がある場合には、特約条項の規定を適用するものとする。
 ※1 A・C間での直接のやりとりをされたくない場合には入れて下さい。BはCより
所有権移転を受ける旨の意思表示を受領したら、Aに報告してください。

 B→C第2売買について

売主(B)は、現所有権登記名義人(以下、「現所有者」という)所有にかかる本物件を買主に売り渡し、買主(C)はこれを買い受けた。
売主(B)は、売主が現所有者との間で締結している平成  年  月  日付売買契約(第三者のためにする特約付)に基づき、現所有者から買主に対し直接所有権を移転させることにより、その義務を履行するものとする。
本物件の所有権は、買主(C)が売買代金の全額を支払い、売主がこれを受領し、かつ売主(B)が現所有者(A)との間で締結している平成  年  月  日付売買契約(第三者のためにする特約付)に基づき、買主(C)が現所有者に対して所有権移転を受ける旨の意思表示をした時に、現所有者(A)から買主(C)に移転する。
 特約条項と本契約とで抵触する規定がある場合には、特約条項の規定を適用するものとする。

 ※所有権を受ける者の指定と、受益の意思表示についても、後日の紛争防止のために証拠書面を残しておく必要がある。

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