通行地役権について

 更新日/2020(令和2).6.12日

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通行地役権について
 「地役権って何? 登記は必要? 注意点は? わかりやすい地役権の基礎知識」その他参照。
 地役権とは、「一定の目的のために、その目的の範囲内で、他人の土地を自分の土地のために利用する権利」のことを云う。これを通行地役権と呼ぶ。地役権とは、一定の目的の範囲内で、他人の土地(承役地)を自分の土地(要役地)のために利用する物権のことを云う。このとき、通行するために他人の土地を利用する側の土地を「要役地」、利用される側の土地を「承役地」と呼ぶ。関連する民法条文は次の通り。
 民法第280条
 地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
 通行地役権例
 Aの土地を要役地、Bの土地を承役地という
 地役権の契約は、要役地と承役地の所有者の合意によって行われる。その地役権は登記を基本とする。「登記をしないと、売買などで承役地の土地所有者が変わった場合、それまでの合意内容を新所有者に対抗できない」ことによる。登記をしておけば、要役地・承役地とも次の所有者は(期限内であれば)引き続き設定されている内容を順守しなければならないことになり、争いを防ぐことができる。地役権だけを売買するなど、要役地と切り離して地役権を処分することはできない。
 地役権の登記で必要になる主な書類は下記の通り。
登記原因証明情報 当事者の合意内容をまとめた契約書など
登記識別情報
(登記済証)
登記簿上に記載されている土地が、承役地の所有する土地であることを示す書類
本人確認情報 運転免許証等
印鑑証明書 3カ月以内のもの(承役地の所有者)
地役権図面 承役地のどの部分に地役権を設定するのかを示した図面
代理権限証明情報(委任状) 司法書士などに依頼する場合に必要
 登記簿に記載されていなくても、長年使用することで地役権が認められる場合がある。「使用する側が自ら道路を敷き、10年か20年間(使用者の善意、悪意により異なります)継続的に使用し続けていた場合、時効によって地役権を取得できる」。これを「地役権の時効取得」と云う。逆に、地役権が消滅する時効がある。「地役権の行使を妨げる事実が生じたときから20年で地役権が消滅する」。この行使を妨げる事実とは、例えば通行地役権の場合、合意した通行部分に建物が建つ等、事実上通行できない事実が生じたかどうかで判断する。これを「地役権の消滅時効」と云う。
 地役権の設定は、例えば、公道と自分の土地の間にある他人の土地(私道)を通行したり、用水路から自分の土地まで水を引くなどの目的で行う。他にも、電力会社が高圧線の下にある土地に地役権を設定し、一定以上の高さの建物の建築を制限するケースもある。最近は、眺望や日照の確保のために地役権を設定するケースもある。

囲繞地通行権との違い
 通行地役権と似たような権利に「囲繞地(いにょうち)通行権」がある。この二つの違いを確認しておく。囲繞地通行権とは公道に接していない土地(袋地)を所有する人が、周囲を取り囲む土地(囲繞地)を通行できる権利のことを云う。囲繞地の所有者にとって最も損害の少ないところを選んで通行することになる。
 囲繞地通行権例
 袋地とは、周囲を他人の土地に囲まれて公道に接していない土地のこと。囲繞地とは、その袋地を囲んでいる土地を指す。袋地から囲繞地を通らなければ公道に出られない場合に発生する。
 通行地役権と囲繞地通行権の違い

 通行地役権の場合、承役地を通らなくても要役地から公道に出ることができるが、囲繞地通行権では袋地のため、他人の土地を通らない限り公道に出られない。
通行地役権 囲繞地通行権
契約の要件 当事者の合意 袋地に備わる権利なので、契約は不要。実際は契約することが多い。
通行できる範囲 当事者の合意で決定 囲繞地にとって損害が少ない範囲
登記 必要 不要
通行の対価料金 当事者の合意で決定 原則として必要
通行が有効な期限 当事者の合意で決定 期間の制限はない

その他の地役権
 通行の目的以外では、水道管やガス管の埋設目的や、承役地(上図B)に高い建物が建つと要役地(上図A)の日当たりが悪くなるので高い建物を建てないようにする目的(日照地役権)などがある。

上下水管地役権について
 通行地役権設定下の土地に対しては、地下に上下水道管を埋設する場合、設置の段階で導管地役権登記を設定しておくのが良い。

 袋地など宅地の立地条件によっては、自己の所有地だけでは本管と接続することができず、隣地等に導管を敷設しなければならない場合(導管袋地)がある。ガスや上下水道の事業者の多くは、このような導管袋地の所有者からの供給契約の申込の際には、隣地所有者との紛争を防止するため、導管を敷設する隣地所有者の承諾書を必要としている。隣地所有者の承諾が得られる場合には問題はないが、隣地所有者が拒否している場合には承諾を求めて紛争に発展する。隣地に導管を設置後、隣地所有者が変更し、新たな隣地所有者が導管の撤去を求めるケースや導管の修理を拒否するケース等が考えられる。しかし、電気・ガス・水道等がライフライン的存在であり、隣地への導管設置を認める必要性が極めて高いことから、裁判実務の多くは下水道法11条、民法210条・220条・221条等の相隣関係の規定を類推適用し、導管袋地の所有者に対し、隣地への導管の設置を認める判断をしている。もっとも、隣地に導管の設置を認める場合でも、その導管路は合理的で隣地にとって最も損害の少ない場所及び方法をとらなければならないと考えられており、導管設置による隣地に損害が生じた場合にはこれを賠償する必要がある。