地面師対策

 更新日/2018(平成30).3.8日

【積水ハウス-旅館海喜館/地面師事件】
 2017.8.3日、伊藤 博敏「積水ハウスから63億円をだまし取った「地面師」の恐るべき手口」参照。

 2017.8.2日、売上高2兆円を誇る大手住宅メーカーの積水ハウスが、東京・五反田の一等地約600坪の3代続く老舗旅館「日本観光旅館連盟 冷暖房バス付旅館 海喜館」、70億円の土地取引において地面師事件に巻き込まれ刑事告訴するという。これを確認しておく。

 所有権者(S、73歳)の知らない間に本人確認用の印鑑登録証明証、パスポート偽造。「成りすまし犯」が手付金を受け取っている。支払い済みは63億円。話を持ってきたブローカー、仲介業者、不動産業者、購入者(社)、間に入る司法書士や弁護士などが「私も騙された」と云い、どこまでが地面師グループかわからない。この成りすまし犯は、過去にもこの種の事件に関係したことがあるという。事情通の不動産関係者の間で「池袋のK」と呼ばれている。

 物件は、山手線徒歩3分という絶好地に、約600坪が「一団の土地」としてまとまっている。東京五輪を見越した都心一等地である。坪単価は1000万円以上、不動産業界ではかねて注目の案件だった。所有権者はS。不動産登記簿謄本によれば、昭和35年12月の相続。抵当関係を示す乙区には何も記載されていない。Sは、板長と仲居を置き、営業を続けてきたが、4~5年前、体調不良を理由に廃業。謄本が移動するのは今年4月24日。売買予約で千代田区永田町のIKUTAホールディングスに移り、同日、大阪市北区に本社を持つ積水ハウスに売買予約はさらに移っている。IKUTA社は窓口で購入するのは積水ハウスということになる。

 ところが、売買は成立しなかった。2ヵ月後の6月24日、「相続」を原因に都内大田区の2人の男性が所有権を移転。Sさんが亡くなったということだろう。7月4日に登記している。2人の男性はSさんの実弟だとされるが、売買予約がついた土地の所有権が移転できたのは、トラブル案件であることを登記所が認め、2人の男性の訴えを認めて相続登記したということ。売買予約で所有権移転の仮登記を打った2社の申請の有効性を廻って今後、訴訟になるのが避けられない。「売買予約」が無効となると、積水ハウスは、Sの成りすまし女とそのグループに騙されたことになる。

 実際には、手付けどころが売買金額70億円のうち9割の63億円が支払われている。63億円はどのように分配されたのか。関係者の口は重い。IKUTA社の代表は女性だが実際のオーナーは「生田姓」の男性。IKUTA社が事件当時、本社を置いていたのは小林興起元代議士の事務所だったが、「登記上、事務所にしていただけです」(事務所)。「K、D、M、Fなどを中心とする名うての地面師グループが関わっている」。地面師犯罪は繰り返されているが、これだけ巨額の物件はマレ。積水ハウスの担当者が、この件に責任を感じてか自殺をしたなどの説も出ている。

 テレビ・新聞が報じない「地面師詐欺」〜ついに明かされた驚きの手口
 地面師詐欺は、捜査員たちのあいだで「ニンベン」とも呼ばれる。「偽」の字の部首から取られた符牒だ。

 容疑は他人の土地の所有権を無断で移し、嘘の登記申請をする。これは電磁的公正証書原本不実記録・同供用に当る。犯行は役割分担される。第一段階は、狙い目の土地を物色、ニセ地主役を仕立てる。成り済まし役。これを斡旋する手配師。取引に備えた予行演習もする。「実際に事務所で取引を想定して目の前に座らせ、内田マイクたちが『これから本人確認をさせていただきます』と司法書士役をしながら、あるいは実際にお抱えの司法書士に質問させる。『身分を証明できるものを提示してください』と指示し、あらかじめ用意した偽造の免許証なり、パスポートなり、高齢者手帳なりを出す。『何年何月生まれですか』、『本籍はどこですか』、『ご兄弟は』、『生まれ年の干支は』などと矢継ぎ早に尋ね、淀みなく答えさせるんです」。「取引に臨む際、関係者は指にマニキュアを塗る。それは関係書類に指紋を残さないためである。不動産取引をするのにまさか手袋するわけにはいかない。それで両手の5本の指の腹すべてに透明のマニキュアを塗っておく。」。地面師事件は、偽造した免許証や偽造パスポートを使って成り済まし役を仕立て、その次に仲間内のブローカーと不動産売買をした格好を装う。そこからカモにする買い手を見つけ、土地や建物を転売する形をとる。

 森功(もり・いさお)
 61年福岡県生まれ。出版社勤務を経てフリーに。『月刊現代』の連載で'08年、'09年「雑誌ジャーナリズム賞」を2年連続受賞。近著に『総理の影 菅義偉の正体』(小学館)などがある
「週刊現代」2017年2月11日号より

 東洋経済オンライン 63億円詐欺も痛くない?積水ハウスの超快走 特別損失計上でも2期連続で最高益を更新へ 」参照。
 注文住宅最大手の積水ハウスの業績が絶好調。売上高は2018年1月期の第2四半期(1~7月期)で初めて1兆円を超え1兆94億円、営業利益が903億円で着地した。、通期でも2期連続で過去最高純益をたたき出す見通し。期初の会社計画と比較しても、売上高は約400億円、営業利益も約150億円の上振れとなった。さらに詐欺事件に伴う特別損失55億円強を計上したにもかかわらず、当期純益は前年同期比17.2%増の610億円と、半期での過去最高を更新した。

 
躍進を支えているのは、相続税対策や効率的な資産運用の需要が旺盛な賃貸住宅だ。部門営業利益は前年同期比4.9%増となった。1棟当たり単価が伸びたことが大きい。前年比で930万円強も上昇し、9200万円を超えた。中でも都心部を中心に1棟単価が1億4300万円にも上る3~4階建ての物件が伸びており、全体に占める比率は65%に達した。主力の戸建て注文住宅は引き渡し戸数が横ばいでも、省エネ化と再生可能エネルギーの導入で消費エネルギーの収支をゼロにする住宅(ZEH)への対応や、天井高といった高級化志向が強まった。部門営業利益は前年同期比で3.5%伸びた。さらにリフォームやマンションの事業などでも利益率が改善。非常にバランスの取れた成長が続いている。今回、積水ハウスは市場環境の不透明さを理由に通期業績を上方修正することはなかった。だが、8月までの受注速報や7月末の受注残の状況などを勘案すると、12月に発表される第3四半期前後には通期の会社計画が引き上げられることは必至だ。詐欺被害をも吹き飛ばす積水ハウスの快走は、どこまで続くだろうか。
 今回の詐欺事件が積水ハウスの先行きを狂わせる可能性はほぼ皆無だが、これを確認しておく。

 
東京のJR五反田駅から目と鼻の先に位置し、すでに廃業して数年経つ日本旅館「海喜館」の土地を巡る詐欺被害。今年6月、積水ハウスは同地の所有者を名乗る人物に63億円を支払い、分譲マンション用地として購入した。購入代金の決済日に所有権移転登記の申請をしたが、所有者側の提出書類に偽造書類が含まれており、登記申請が却下された。それ以降、所有者を名乗る人物と連絡すら取れなくなっている。


 不動産にかかわる詐欺事件として警察へ届け出たが、63億円はほぼ回収不能とみられる。このため所有者を名乗る人物からの預かり金7.5億円を相殺し、第2四半期に55.5億円の特別損失を計上した。不動産会社が被った、不動産詐欺。この責任を取り、和田勇会長と阿部俊則社長は10月から2カ月間、減俸20%、ほかの取締役を減俸10%とする処分を取締役会として決めた。犯罪に巻き込まれた可能性が高いとする一方で、リスク管理上の問題点を調査・検証するために第三者委員会を立ち上げ、原因究明と再発防止策の検討を進める。今回の取引にかかわった現場社員の処遇は、この調査委員会の報告後に決定するという。土地取引に関する審査体制の厳格化などについても、「すべてはこの調査が終了してから。問題点をつぶさに調べ、時期が来たら公表する」と、阿部社長は厳しい口調で語った。

 同業他社の多くはこの事件に同情的だ。大手ハウスメーカーからは、「一歩間違えると、うちの社で起こってもおかしくなかった」、「これまでも所有者の本人確認は徹底してきたつもりだが、(印鑑も身分証明も偽造されていたなどという報道を見ると)どのように対処すればよいか悩む」などといった声が聞かれる。また、「不動産取引は生ものを扱うようなもの。(他社に取られないように)時間との勝負に迫られる。あまりしつこく確認、確認と唱えれば、せっかくの売り先も逃げてしまう」と、不動産取引の難しさを吐露する同業もいる。一方、ある大手ゼネコンの役員は、「バブル期には同様な事件が多発していた。昔はそれが経験となって、怪しい取引に対して勘が働いたものだ。世代が替わり、鼻の効く人が減っていることが原因ではないか」と指摘する。


 2018.3.7日付けITmedia ビジネスオンライン提供「積水ハウスはなぜ“地面師詐欺”を見抜けなかったのか

 積水ハウスは3月6日、2017年に分譲マンション用地取引で詐欺に遭い、約55億5千万円をだまし取られた問題について、発生経緯と要因をまとめた調査報告書を公表した。リスク管理を担う複数の部門が詐欺を見抜けず、外部からの指摘を「嫌がらせ」と判断して振り込みを断行していたという。一部報道機関が和田勇前会長の退任理由を「阿部俊則前社長のクーデターによる解任」などと報じていたが、これについても「和田氏による自主的な申し出」「マンション用地取引の責任問題とは無関係」としている。

●なぜ詐欺を見抜けなかった?

 積水ハウスは詐欺を見抜けなかった要因を、(1)(偽造済みの)パスポートなどによる本人確認を過度に信頼していた、(2)購入起案に対し、関連部署が内容の精査や判断のけん制を行わなかった、(3)現場と本社関係部署がリスク情報の分析・共有ができていなかった――と分析。こうした理由によって、同社は“地面師”との取引の際に不信な点に気付かず。外部から文書、訪問、電話などでリスク情報が事前に届いていたものの、関連部門は「取引妨害」と判断し、上層部などに情報共有を行うことなく金銭を支払ったとしている。具体的な部門としては、内容を精査しなかったマンション事業本部、リスク管理を怠った不動産部、重要なリスク情報を関連部署や社長に報告しなかった法務部などを挙げている。

 同社によると、マンション事業部長は昨年末に既に辞任しているほか、責任の所在を明確化するため不動産部長と法務部長は部長職を解いたという。退任済みの和田前会長、会長職に退いた阿部前社長にも結果責任があると結論付けている。同社は今後、仲井嘉浩現社長が率いる体制下で(1)重要な投資案件に関しては、経営会議によって審議・検証を行う、(2)部署間の連携を徹底し、リスク情報を共有する、(3)稟議制度の運用方法を改善する――といった対応策をとり、再発を防いでいくとしている。

 ●株主から訴訟提起

 一方、積水ハウスは6日、詐欺事件の発生要因は阿部前社長が監督を怠ったためであり、善管注意義務・忠実義務違反があったとして、個人株主から5日付で提訴請求書を受け取ったことを明らかにした。今後は監査役が提訴の内容を調査し、対応策を検討するという。積水ハウス側が責任追及などの訴訟を提起する場合は、速やかに告知するとしている。