契約不適合責任の免責特約条文の注意点

  特約・容認事項をしっかり書くこと

 新民法下では、売買契約書の特約・容認事項をしっかり書くことが最も重要になる。売買契約書には、定型的な条文の他、個々の物件の条件に合わせて特約・容認事項が記載できる欄がある。その特約・容認事項の欄に、売主として気になることは全て書きだし、その書き出し事項を承知した上での売買契約であることをはっきりさせておくことが望ましい。

 個人間売買では代金減額請求権の条項は設けられない方向

 契約不適合責任には悩ましい論点が潜んでいる。それは、「代金減額請求権」と「契約解除または損害賠償請求」が両立しえないのではないかという点である。代金減額請求は契約に効力があることを前提に行われる。それにも関わらず契約をなかったものとする契約解除を行うのは矛盾するのではないかとの主張になる。また、代金減額は損害を解消していることにもなるため、さらに損害賠償請求もするのは両立しえないと主張する考えもある。このように代金減額請求権には微妙な問題が潜んでおり、今後、どのように運用されるのかは判例が積み上がっていかないとわからないというのが現時点の状況である。

  設備に関しては一切の責任を負わないようにすること

 不動産の売買では設備も売却対象である。中古住宅の設備は多少の不具合があることがむしろ一般的で、設備に対して厳密に契約不適合責任を適用すると円滑な取引を阻害することになる。そこで、設備に関しては一切の契約不適合責任を負わないようにすることを契約条文に記載することが重要となる。今後、普及する売買契約書の雛形には「付帯設備の故障や不具合については、修補・損害賠償その他一切の責任を負わないものとする」と書かれるようになります。売主としては、売買契約書の中で設備は一切の責任を負わないようになっていることを確認することが重要である。

  事前にインスペクションを行うことが望ましい

 契約不適合責任下では、紛争が生じそうな事案については特に、売買目的物の内容、その物理的状態状況を正確に記載しておくことが必要となる。その為に、事前にインスペクションを行うことが望ましい。インスペクションとは、主に柱や基礎、壁、屋根などの構造耐力上主要な部分や、外壁や開口部などの雨水の浸入を防止する部分について、専門家による目視や計測等の調査のことを指す。インスペクション制度は2018年4月からの宅地建物取引業法の改正によりスタートしている。これは2020年4月からの民法改正に先立ち導入された制度といわれている。インスペクション費用は5万円程度である。売主を契約不適合責任から守るための有効な手段としてインスペクションを活用するのも良い。

 契約不適合責任は、「わかりやすい民法にすること」と「国際的なルールと整合性を合わせること」を目的に創設された新たな制度である。契約不適合責任では、買主が「追完請求」、「代金減額請求」、「催告解除」、「無催告解除」、「損害賠償請求」の5つを請求できるようになり、売主の責任は一層重くなる。但し、契約不適合責任は任意規定なので免責条項は有効である。契約不適合責任の趣旨を十分に理解し、不要な責任を問われないよう準備した上で売却、仲介に臨むのが良い。