瑕疵担保免責特約の有効性について

 更新日/2015.08.25日

瑕疵担保免責特約の有効性について
 売買における瑕疵担保責任を負わない旨を特約事項で明記した中古住宅売買の引渡し後に隠れた瑕疵が発見され、買主より売主及び仲介業者に対する費用負担請求が為された場合、どう解決すべきか。
 例えば次のようなケースである。売主A、買主B。元付け業者X、客付け業者Y。BはX、Yの仲介で中古住宅を2000万円で売買契約した。その際、業者は、重要事項説明書、売買契約書に「売主は瑕疵担保責任を負わない」の特約を付し、何度も確認し説明していた。引渡し後、Bがこの建物に入居したところ、蛇口をひねってもなかなか浴槽に水が溜まらない。ガス栓をひねってもガスが出てこないなど幾つかの不具合が生じた。調べてみると、浴槽の手前側に亀裂があって水が漏れていた。ガス管もそのままの状態では使用に耐えうるものではないことが分かった。Bは瑕疵があるものを買わされたとして、売主A、仲介業者X、Yに対して、修理にかかった費用の相応分の負担を要求してきた。このような場合、瑕疵担保免責特約の効力はどうなるか。媒介業者はどう対応すべきか。無料相談委員会はどう対応すべきか。

売主が一般人である場合の瑕疵担保免責特約の有効性についての回答
 瑕疵担保免責特約の有効性につき一般的に次のように解釈される。

 瑕疵担保責任は、民法第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)、民法第570条(瑕疵担保責任)に定められている。
条文の云う「瑕疵」の語彙的解釈は、「隠れた瑕疵、即ち通常人が取引上一般に要求される程度の注意をもってしても認識、知見することができない瑕疵をいう」と解されている。法律的には「物が通常有すべき品質・性能を欠くこと」と定義づけられている。これによれば、買主が知っている場合とか、通常の注意をもってすれば知り得た瑕疵は瑕疵担保に当らず担保責任を追及することができない。なお、瑕疵担保責任は瑕疵を知ったあと1年以内に損害賠償や契約解除をしなければならない。
 取引内容が中古住宅売買の場合、旧来式の「現状有姿規定」は瑕疵担保責任免責の根拠としては弱い。明記するのであれば、以下のように瑕疵担保免責特約を明記しておくべきである。但し、売主が個人の場合と宅建業者の場合とで差がある。

 中古住宅売買&売主が個人の場合には瑕疵担保免責特約は有効である。この場合には、瑕疵があったとしても売主に瑕疵担保責任の請求をすることはできない。というのは、中古物件の性格上、既に相当の築年数が経過していることにより瑕疵があることがあらかじめ予想された前提となっており、それを承知し且つ売買金額にも納得して契約していると推定されるからである。

 問題は、売主が瑕疵を知っていて敢えて買主にその事実を告げなかった場合の取引である。この場合には責任を負う。これにつき、民法第572条(担保責任を負わない旨の特約)が次のように定めている。「売主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない」。

 なお、売主が不動産業者の場合は買主に不利な特約は無効とされており、個人間売買の場合のような瑕疵担保免責特約は認められない。
 実践的にはこうなる。物件が築後20年を経過している場合には、屋根等の躯体、基本的構造部分、水道管、下水道管、ガス管、ポンプ等の諸設備について相当の自然損耗、経年変化が予見される。そこで、契約時の重要事項説明書、売買契約書に瑕疵担保免責特約を特約事項に記しておくことが肝要となる。この瑕疵担保免責特約を記す前提として、売主、仲介業者間の内覧確認は無論のこと、できるだけ契約期間中に売主、仲介業者は買主と共に内覧し、ライフラインに関わる基本的な諸設備が正常に稼働、作動していることを確認する。その他のヶ所のシミ、汚れ、ヒビ割れの状況、開閉の不具合を現地で確認しておく必要がある。契約時の重要事項説明書に「付帯設備及び物件状況確認書(告知書)」を添付し、引渡時の状況を確認、確定させる。その際、専門家による調査によらなければ明らかにならない不明事項は、「不明。但し専門家による調査は未了」と明記しておく。

 次のように書いておくことも肝要である。「耐震強度、アスベスト使用の有無、土壌汚染についても専門家による調査は未了であるが、買主はそれを承知して本件物件を上記金額で購入するものであり、耐震強度不十分、アスベストの使用、土壌汚染等を理由として法的請求、その他金銭的請求をしないものとする」。

 こうしておけば、買主は本物件の劣化及び損傷程度を承知、承認し、それを前提として本契約書所定の代金で本物件を購入したことが裏付けられる。それらの状況を種々考慮協議して、当初予定していた売買代金からの値引きがあれば更に裏付けられる。こうしておけば、引渡し後に自然損耗、経年変化による劣化・腐蝕等を原因として仮に雨漏り、水漏れ、ポンプ等の設備の故障等があったとしても、それらは隠れた瑕疵に該当せず、買主の責任と費用で補修し、売主に法的請求・費用負担等を求めないことになる。
 仲介業者の責任と限界について次のような判例、見解がある。
 「仲介業者(宅建業者)は、鑑定・評価人ではないのであるから、隠れた瑕疵の有無などにつき、原則として調査・鑑定の義務はない」(明石三郎『不動産仲介契約の研究p.210頁~211頁)。
 「宅建業者は、取引当事者の同一性、代理権の有無、取引対象物件についての権利関係及び各種法令による制限の有無、種類といった法律上の問題についての重要事項を専門的立場から調査については高度の注意義務が要求され、取引主任者をして買主に対して説明・告知させ、説明書を交付する義務を負っているが、目的物件の物的状況に隠れたる瑕疵があるか否かの調査についてまでは高度な注意義務を負うものではない」(千葉地裁松戸支部平成6年8月25判決等)。
 「売主と買主の双方から仲介を依頼された仲介業者は、売主の提供する情報のみに頼ることなく、自ら通常の注意を尽くせば仲介物件の外観(建物内部を含む。)から認識することができる範囲で、物件の瑕疵の有無を調査して、その情報を買主に提供すべき契約上の義務を負うと解すべきである」(東京地方裁判所平成16年4月23日判例時報1866号65頁)。

 つまり、三者三様の見解が出ており、法的な見解が定まっていないことになる。

売主が宅建業者である場合の瑕疵担保免責特約の有効性についての回答
 売主が宅建業者である場合の瑕疵担保責任につき、個人間売買の場合が引渡しからの1年間規定に対し2年間の義務を負う。

 売主が本職の宅建業者である場合において、物件が築後20年を経過している場合に瑕疵担保免責特約を付すことができるか。これについては、そういう特約はできない。但し、売主が瑕疵担保責任を負う場合の責任は売買の対象物についての「隠れた瑕疵」であるので、明白に分かる不具合の場合は隠れた瑕疵ではない。瑕疵の明示により担保責任を生じなくすることができる。

 故に、売買契約の際に、具体的な不具合を契約書上に列挙し、そこに記載した瑕疵については責任を負わないことを書くのが良い。こうしておけば、その不具合については瑕疵担保責任を問われることはない。具体的には、業者としては、「付帯設備表および物件状況報告書」等に瑕疵である旨を表示して瑕疵を隠れたものにしない形の取引を行えば瑕疵担保責任を問われることはない。(「中古物件の瑕疵担保責任について」、「不動産 宅建業者の瑕疵担保責任」参照)

【討議資料】
 売買事例 1406-B-0180
 汚染土地における瑕疵担保責任免責特約の有効性いかん

 土壌汚染の可能性のある土地を売買する場合、「瑕疵担保責任を負わない」という特約をしても、その特約が必ずしも有効とは限らないという同業者がいる。この同業者の指摘は正しいか。瑕疵担保責任を負わない特約は、民法第572条に定められているケース以外は有効だと思うが、その対応自体も間違っているということになるのか。このような問題は、汚染土地以外にもあり得るのか。

 事実関係

 当社は媒介業者であるが、最近同業者の間から、瑕疵担保責任の免責特約は必ずしも有効でないという話が持ち上っている。それは、「土壌汚染」の問題を取り上げて言っているのであるが、なぜそのようなことになるのか、その理由がよくわからない。

 質問

1.  瑕疵担保責任を負わない特約は、売主が瑕疵のあることを知りながら買主に告げなかった場合など、民法第572条に定められているケース以外は有効だと聞いているが、その対応自体も間違っていることになるのか。
2.  瑕疵担保責任の免責特約が必ずしも有効でないということは、その特約が有効の場合もあるし、無効の場合もあるということか。
  3.  このような問題は、「汚染土地」以外にも発生するのか。

 回答

1.  結 論
 質問1.2.について ― そうではなく、その同業者が言っているのは、瑕疵担保責任を負わないという(一応有効な)特約をしている場合であっても、後日、その効力を消滅させてしまうような重大な瑕疵が発見された場合には、その有効性が喪失してしまうことがあるということを言っているものと考えられる。
 質問3.について ― 「汚染土地」以外にも発生する。
   
2.  理 由
   売主が宅建業者等の事業者で買主が一般の消費者であるとか、物件が築後1年以内の未入居の新築住宅であるといった一定の場合を除き、瑕疵担保責任を負わないという特約は、民法第572条に定められているケース以外は、法的に有効である。

 しかし、その特約が法的に有効だとされるのは、その瑕疵が、当事者の予想していた、あるいは通常の注意をすれば予想し得る範囲内の瑕疵であった場合に限られ、その瑕疵が当事者の予想をはるかに超える瑕疵であった場合には、その「瑕疵担保責任を負わない」という特約が、当事者の合意の範囲を超えるものとして、特約そのものが無効になる、あるいはその予想の範囲を超える部分の瑕疵について効力が否定されることがあり得るということであろう。したがって、汚染された土地の浄化あるいは封じ込めの費用の額が、その土地が普通の土地であったとした場合の価額を上回るとか、それに近いといったケースの場合には、おそらく当事者の合意の範囲を超えるものとして、「瑕疵担保責任を負わない」という特約そのものが無効とされ、あるいはその予想の範囲を超える部分について無効とされる可能性があるということであろう。

 このことは、「汚染土地」の場合に限らず、一般の土地についても、たとえばその土地が陥没したとか、著しく軟弱であった場合、あるいは地中埋設物の混入などの場合にもあり得る。ただ、その場合の考え方としては、瑕疵担保責任の問題とは別に、その特約が「錯誤」により無効あるいは一部無効となるということだといえようが(民法第95条)、実際に無効になるかどうかについては、個々の事案ごとに判断される問題であり、一概にはいえないので、このような問題に直面した場合には、すぐに弁護士などの法律の専門家に相談をするなりして、慎重に対応することが肝要である。

 監修者のコメント

 瑕疵担保の免責特約は、回答にある民法第572条と消費者契約法第8条第1項第5号及び住宅品質確保法第95条の適用のある場合を除き、原則的には有効である。しかし、現実の裁判例の中には、免責特約があっても、具体的事案について、信義則あるいは公平の観点からその効力を否定するものもある。たとえば、会社間の土地の売買契約で、免責特約はあったが、売主、買主双方の担当者がまったく予想もしていなかった地下室等のコンクリート塊が存在したケースで、その部分までは免責特約の効力が及ばないとするものである。このような裁判例は、決して特殊なものではないが、あくまでも例外的事象に特約の効力を否定するものであるから、売主がある事情から瑕疵担保責任を負いたくないという場合は、免責特約は原則的には有効であるから規定しておく意味はある。なお、宅建業者が売主で、買主が宅建業者でない売買では、免責特約は無効であることはもちろんである(宅建業法第40条)。


【討議資料】
 事業者売主の瑕疵担保責任免責は有効か?…宅建業法以外の制約に注意!
  (質問)宅建業者ではない事業者(法人個人とも)が売主である不動産を消費者が購入する場合、売主の瑕疵担保責任を免責とする特約の有効性についてお尋ねします。民法570条が任意規定とされていても、消費者契約法による制約は受けると聞いていますが、実務においてどのような特約が望ましいか、ご教示ください。又、瑕疵担保責任を負わないという特約に問題がある場合、瑕疵担保責任を負うとしてもその期間は一般個人の場合の2ヶ月とか3ヶ月とかでも問題ないのでしょうか?

 (回答)民法上、売買契約の売主は、「隠れた瑕疵」の損害賠償責任を負い、瑕疵のために契約の目的を達成できないときは、買主に契約の解除権が与えられます(民法570条本文、566条1項)。しかし、この売主の損害賠償責任と買主の解除権については、民法上は任意規定なので、法の定めと異なる特約が可能です。つまり、当事者双方の合意で瑕疵担保免責とすることも可能となります。

 一方、宅建業法では、売主が宅建業者、且つ、買主が宅建業者ではない場合、宅建業者は、瑕疵担保責任が目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、民法に定める責任と比べて買主に不利な特約を締結することができず(宅建業法40条1項)、これに違反する特約は無効(同条2項)となります。又、売主及び買主のいずれもが宅建業者である場合、宅建業法40条1項の適用はない(同法78条)ので、売主が瑕疵担保責任を負わないこととする特約も可能ということになっています。

 さて、消費者と事業者の間には、取引のための情報の質と量、並びに交渉力において格差が存在します。消費者契約法は、この格差に着目し、事業者の行為により消費者が誤認困惑した場合に、申込み、承諾の意思表示を取り消すことができるとし、又、事業者の損害賠償の責任を免除する条項、その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることを定めています(消費者契約法1条他)。消費者契約法は、消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する特約を無効としており、原則的に瑕疵担保責任の全部を免除することはできません(8条1項5号)。ただし、例外的に、瑕疵の無い物をもってこれに代える、又は瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合等には、損害賠償を免除する特約も効力が認められます(8条2項)。すなわち特約により、瑕疵修補義務等を定めておけば損害賠償義務を免除することが可能となるわけです。

 そこで、本問に対する回答としては、民法上、任意の約定が認められる瑕疵担保責任の特約であっても、消費者契約法上の事業者にあたる売主が同責任の全部を免除し、且つ、損害賠償義務も免除する特約をすることは出来ませんが、瑕疵の修補義務を定めたときは損害賠償義務を免除することが可能となります。なお、瑕疵担保責任の履行請求権を制限する期間について、3ヶ月の設定を消費者契約法10条により消費者の権利を制限するとして無効とした東京地裁平成22年6月29日判決もありますので、やはり民法の、事実を知ってから1年以内もしくは宅建業法の2年以上とするなどの注意が必要と言わざるを得ません。

ライフラインまで瑕疵担保免責特約の有効性について
 「ライフラインも含めた何もかも現状有姿の瑕疵担保免責特約の有効性」は如何なものであろうか。これについての研究は未踏のように思われる。