契約違反による解除の際の違約金の扱いについて

 更新日/2020(令和2)年5月25日 

 ここで、「契約違反による解除の際の違約金の扱いについて」を確認しておく。


【違約金条項について】
 2019年12月20日、「違約金を支払えば不動産売買契約を解除できるわけではない!」参照。
 「契約違反による解除」について
 不動産の売買契約は、売主、買主の双方が義務を負う「双務契約」(そうむけいやく)となっている。その義務を守らなかった時に契約違反となり、売買契約が解除になる場合がある。そこで、契約違反で解除できるかどうかの判断、違約金の額、違約解除できる人など「契約違反による解除」に関する事項をまとめておく。

 1、不動産売買契約・書重要事項説明書の文言確認

 「契約違反による解除・違約金」は次のように記されている。

1 売主および買主は、その相手方が本契約にかかる債務の履行を怠ったとき、その相手方に対し、書面により債務の履行を催告したうえで、本契約を解除して表記違約金(以下「違約金」という。)の支払いを請求することができる。なお、違約金は、現に生じた損害の額の多寡に関わらず増減はしないこととする。
2 違約金の支払い、清算は次のとおり行います。
(1)  売主違約の場合、売主は、買主に対し、すみやかに受領済みの金員を無利息にて返還するとともに、違約金を支払う。
(2) ) 買主の違約の場合、違約金が支払い済みの金員を上回るときは、買主は、売主に対し、すみやかにその差額を支払い、支払い済みの金員が違約金を上回るときは、売主は、買主に対し、受領済みの金員から違約金相当額を控除して、すみやかにその残額を無利息にて返還する。

 これを解説する。
 契約の相手方が売買契約の義務を怠ったなら、書面で義務を果たすように請求(履行の催告)したうえで、売買契約を解除すると同時に、違約金を請求することができると記載されている。違約金の額は、通常の取引では売買契約の10% または 20%を違約金として定めている。宅建業者が売主になるときは、違約金 + 損害賠償額 で売買代金の20%を超えることができないと定められている(解約料、キャンセル料、事務手数料等の名目を問わない)。宅建業者が売主でなければ違約金の額に定めはないが、高額違約金を設定した場合、公序良俗違反で無効になる可能性がある。公平の見地から常識的範囲で定めるのが無難である。 

 清算の具体例を確認しておく。物件価格5,000万円、手付金300万円、違約金10%契約の場合。違約金は5,000万円×10%で500万円。買主が違反した場合は、既に300万円を売主へ支払っているので、200万円(500万円-300万円)を差額として支払うことになる。売主が違反した場合は、既に受け取っている300万円を返還すると同時に、違約金の500万円を支払う。これにより合計で800万円を支払うことになる。違約金を基準にしたやりとりになっている。

 「損害賠償額の予定」に関して見ておく。通常、損害賠償をする側は、損害の発生とその金額を立証しなければならないが、損害を立証するのは大変な作業になるので、相手に契約違反(債務不履行)があったことさえ立証できれば構わないことにして請求できる賠償額をあらかじめ定めておくことができる。これが「損害賠償額の予定」である。損害賠償額の予定として、違約金を売買代金の10%相当額と定めた場合、先ほどの例でいうと違約金は500万円になる。実際の損失が100万円しかなかったとしても、1,000万円と高額になってしまったとしても、500万円で固定される。この金額は裁判所であっても変更できない…と民法で定められている。

 契約違反があればいつでも不動産売買契約を解除できるの…?

 不動産の売買契約は成立させるのが大変なのに、不動産取引を解除できる権利を保証している。そこで、どの契約違反なら契約解除ができて、どの契約違反なら契約解除できないと考えるべきか…?を検討しておく。

 【1】不動産売買契約を解除しやすい契約違反

 相手方の責任が重い契約違反であれば、契約解除を認めるべきです。 

■ 売買代金の支払い、■ 引渡し、■ 抵当権等の抹消、■ 所有権等の移転登記等、■ 引渡完了前の滅失・毀損(売主の善管注意義務違反)、■ 反社会的勢力の排除条項、■ 手付解除期日を過ぎた後の契約解除 。

 上記中、「引渡完了前の滅失・既存」を確認しておく。不動産売買契約を締結してから実際に引渡しを受けるまでには1か月~3か月程度の時間が空くのが一般的である。引渡しを受けるまで、買主は対象不動産を利用することも管理することもできないので、売主が通常の注意義務よりも重い「善良な管理者たる注意義務(略して…善管注意義務)」を負うことになっている。売主がこの義務に違反したことで、建物が壊れてしまったり、火災で燃えてしまい使えなくなってしまった場合、善管注意義務違反として売買契約を解除することができる。この義務を売主が果たしていなければ責任重大!だから契約解除も仕方ないということになっている。

 【2】不動産売買契約を解除しづらい契約違反

 次は売主の責任が【1】に比べて軽い契約違反です。契約解除できる場合もあるが、仲介業者の采配又は弁護士への相談が必要になる。 

■ 物件状況報告書の記載違反■ 設備の引渡し、■ 境界の明示

■ 諸規定の継承。

 上記中、「境界の明示」を確認しておく。一戸建て、土地の契約書には売主責任による境界の明示が記載されている。売主は、引渡時までに、現地で境界票を指示して境界を明示する義務を負っている。但し、この義務を怠っただけであれば契約違反による解除は難しい。例えば、道路面を含めた隣地との境界を確定させ、測量図面を作成することが条件になっていたにもかかわらず、隣地の住人が立ち会ってくれなかったり、境界確認の押印をもらえない場合がある。こういう場合、契約解除になる可能性がある。その他「越境の解消」・「私道の通行掘削承諾書の取得」などを契約条件にしていたにもかかわらず、売主が条件を満たせなかった場合も契約解除になる可能性がある。このようなケースでは、通常、下記のような文言を入れることで「解除条件付」契約にする。

 なお、売主の責に帰さない事由により同覚書が取得できない場合には、令和○年○月○日までであれば、売主および買主は本契約を無条件にて解除することができる。この場合には、売主は買主に対し、受領済の金員を無利息にて速やかに返還しなければならない。

 解除条件付契約とは… 

 一定の事実の発生により契約の効力が消滅する契約のことを言う。例えば、住宅ローンの本審査が内定しなかった場合に使う「住宅ローン特約」は解除条件になる。住宅ローンの借り入れができないという事実が発生したため、それまで有効に成立していた売買契約の効力が消滅することになる。

 「違約金を支払えば不動産売買契約を解除できる」は誤り!

 手付解除では、手付金放棄・倍返しにより、自由に契約を解除することができる。しかし、契約違反による解除の場合、自由に解除することはできない!契約違反があった場合、その相手方は次の「どちらかを選択」することができる。 

■ 契約の履行(義務を果たすこと)

■ 契約を解除して違約金を請求する 

 買主が残代金を支払わないなどの違約をした場合、売主は、違約金を請求しても良いし、残代金を支払うように求めることもできる。売主が所有権移転に協力しないなどの違約をした場合、買主は、違約金を請求しても良いし、不動産を引き渡すように求めることもできる。買主が購入を断念して契約を解除する場合、違約金の支払いで済ます権利はなくて、売主に選択権がある。

【違約金条項適用の際の中間金の取り扱いについて】
 2014年12月、「個人間売買における中間金解除特約の有効性と業法47条との関係」。
 個人間の売買の媒介で、売主から、「買主が支払う手付金の額が少ないので、買主からの手付解除を防止するために、手付解除に代わる中間金解除特約を定めてもらいたい」と言われた。このような特約は、法的に有効な特約といえるか。このような特約を定めた場合、当社は、宅建業法第47条第3号の手付に関する信用供与の禁止規定に抵触しないか。

 事実関係

 当社は媒介業者であるが、このたび個人間の売買における売主からの申入れで、「手付金の額が少ないので、買主からの手付解除を防止するために、手付解除に代わる中間金解除という特約を定めてもらいたい」と言われた。当社は、そのようなことができるのかどうかわからなかったが、とりあえず売主から話を聞いてみたところ、その内容は次のようなものであった。
 手付金の額が50万円と少額なため、買主は中間金として、あと50万円を売買契約締結後2週間以内に売主に支払う。
 売主および買主は、互いに手付解除は行わず、その代わりに中間金が支払われた日以降、それぞれ手付金・中間金の合計額(100万円)を買主は放棄し、売主はその倍額を買主に償還し、売買契約を解除することができる。
 売主または買主がこの特約に違反した場合は、互いに違約金として、売買代金の20%相当額を相手方に支払う。

 質 問

1.  このような、当事者に手付解除の権利を放棄させ、中間金を含めた支払金の全額の放棄・倍返しによって買主が履行に着手した(中間金を支払った)後も売主が売買契約を解除することができるというような特約は、民法の規定にも判例の趣旨にも反すると思うが、法的に有効か。
2.  このような特約を定めた場合、その取引が個人間の売買であっても、媒介業者の行為が、宅建業法第47条第3号の手付に関する信用供与の禁止規定に抵触するというようなことにはならないか。

 回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 有効と解される。
 質問2.について ― 個人間の売買であっても、宅建業法第47条第3号の規定の適用は受けるが、本件の場合は媒介業者の行為が同条の禁止規定に抵触するようなことにはならないと解される。
2.  理 由
について
 本件の特約は、民法の任意規定やそれに伴う判例の内容と異なる特約のかたちになってはいるが(後記【参照判例】参照)、その内容は当事者間の契約自由の原則の範囲内のものと考えられるので、法的に有効なものと解される。ただ、本件の特約は買主に多少なりとも無理を強いる特約となるので、特にその中間金の支払時期については、あまり買主に無理がないように媒介する必要があろう。
について
 宅建業法第47条第3号の手付に関する信用供与の禁止規定は、売主が一般の個人であっても、その媒介をする宅建業者を規制するという趣旨の規定であるから(同条本文)、結論で述べたとおり、本件の個人間売買においても、同条の規定の適用を受けるということはそのとおりである。しかし、本件の取引においては、売主が安易な手付解除をできるだけ避けたいということから、手付金の額を100万円以上に設定したいという強い意向があり、その意向を買主が理解したうえで2週間後に中間金を用意し、それを売主に支払うということで当事者間の意思の合致を見い出そうとしているものと解されるので、媒介業者が、その売主の意向に添わせるために、買主に対し、その意思に反し中間金を支払わせるということでもなければ、本件の特約が同条の脱法行為だということにはならないと解されるからである。

 参照条文

 民法第557条(手付)
 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
  (略)
 宅地建物取引業法第47条(業務に関する禁止事項)
 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一、二 (略)
三 手付けについて貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為

 参照判例

 最判昭和40年11月24日民集19巻8号2019頁(抜すい)
 民法557条1項にいう履行の着手とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし、又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指す
 大判昭和14年5月26日評論28号民734頁(要旨)
 民法557条1項は強行規定ではないから、履行の着手の前後を問わず履行の終了までは解約手付による解約権を行使することのできる旨の特約も有効である。

 監修者のコメント

 手付金と中間金の合計額の損害を覚悟すれば、互いに契約解除ができるという特約は、宅建業者が売主のときは無効であるが(宅建業法第39条)、そうでない限り、回答のとおり契約自由の原則の範囲内の問題であり可能である。また、業法の手付貸与の禁止規定にも抵触しない。ただ、手付を放棄すれば買主が解除できるということは、広く知られているのに対し、また民法の手付についての規定(第557条)が任意規定であることはあまり知られていないので、媒介に当たり買主に本件特約の効果をよく説明して理解してもらうことが大切である。なお、手付解除を防止したいのであれば、「互いに手付解除はできない」旨の特約をする方法もある。その特約も有効だからである。